【3373】 ○ 川崎 秀明/樋口 治朗/平澤 貞三/滝口 修一/亀谷 康弘 『with & afterコロナ禍を生き抜く 新しい企業の人事・労務管理 (2020/10 清文社) ★★★★

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社員感染時の対応や在宅勤務や時差出勤のルール構築等を分かりやすく解説。

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with&after コロナ禍を生き抜く 新しい企業の人事・労務管理』['20年]

 本書は、新型コロナウイルス感染症により変化した会社の経営や勤務形態を踏まえ、社員が感染した場合の対応、在宅勤務や時差出勤のルール構築、人事評価制度や就業規則の見直しなど、人事・労務管理上のポイントを実務家の視点で解説したものです。

 第1章「感染拡大予防とコロナ禍時代の新しい企業活動」(全9節)と第2章「コロナ禍時代のダメージコントロール」(全3節)から成り、 各節の各項は、必要に応じて「基礎編☆」(対応が必須の事項)、「応用編☆☆」(対応の必要性が高い事項)、「発展編☆☆☆」(留意しておいたほうが良い事項)に分類されています。

 第1章の第1節「社員感染時の対応」では、基礎編で、社員が新型コロナウィルスに感染した場合は入院勧告の対象となることや、賃金・休業手当の支払いの要否、社内調査・社内公表の必要性について述べ、さらに、体調不良社員への自宅待機命令の可否や、その場合は休業手当の支払いが必要かどうかを解説しています。続く応用編では、社員と同居している家族が発症した場合や社員寮・社宅居住者が発症した場合の対応を、発展編では、社員の労災認定や会社の法的責任はどうなるかを解説しています。

 第2節「勤務形態の変更に伴う社員対応」では、基礎編で、出社を拒否しテレワークを要求する社員や、逆にテレワークを拒否して出社要求する社員への対応を、応用編では、出社拒否社員に担当変更やワークシェアリングを求める場合の留意点を、さらに、採用内定者の入社延期・内定取消しは可能かどうか解説しています。

 第3節「賃金・処遇」では、基礎編として、コロナ禍休業時の賃金・休業手当の支払いの要否について述べるとともに、休業時に有給休暇の活用する方法や、テレワーク実施費用の会社負担を軽減するためのポイントを述べています。さらに応用編では、休業手当の算定方法や雇用調整助成金の活用など実務面の解説をし、発展編では、コロナ禍対応に報いるための一時金の支給を提案するとともに、業・副業を許可する場合の留意点などを述べています。

 第4節「労務管理①:オフィスにおける感染防止策」では、基礎編としてオフィスにおける感染防止策顔説しています。

 第5節「労務管理②: テレワーク」では、基礎編で、テレワーク労務管理の基本や労働時間の管理方法、「事業場外みなし労働時間制」の適用について述べ、応用編で、情報管理の徹底・情報セキュリティ、柔軟な労働時間の実現と残業ルールの明確化・長時間労働防止策、作業環境整備による社員の安全衛生管理・労災リスクの回避、社内教育・「試しテレワーク」の必要性、テレワークにおける業績評価・人事評価、電子契約の活用について解説しています。

 第6節「労務管理③: 時差出勤・自家用車通勤・自転車通勤」では、基礎編で、変形労働時間制、フレックスタイム制について、応用編で、自家用車通勤・自転車通勤における安全確保対策等について、発展編で、勤務時間の一部をテレワークにする場合について解説しています。

 第7節「労務管理④:テレワークにおける業務効率アップ・インセンティブ確保・メンタルヘルスケア」では、基礎編で、社員同士のコミュニケーションの充実、会社・部署内での方針共有・一体性確保、オンラインハラスメントについて、応用編で、管理職に対する教育研修の実施について解説しています。

 第8節「就業規則など未整備時の対応」では、基礎編として、就業規則の作成と届出の基本と、テレワークに関する就業規則等の未整備、通勤手当不支給に関する規程の未整備、三六協定・特別条項の未整備の場合どうすればようかを述べています。

 第9節「雇用契約以外の活用とトラブル対応」では、応用編として、「外注契約」の活用と留意点、労働者派遣契約の中途解約、コロナ禍に起因する取引契約の不履行による法的責任について解説しています。

 第2章「コロナ禍時代のダメージコントロール」の第1節「経費削減」では、応用編として、オフィス縮小、賃料負担軽減、ワークシェアリングと副業・兼業勧奨、事業所閉鎖と配転命令について述べ、第2節「効率的な人材活用・人員削減とトラブル対応」では、応用編として、、「新しい」成果主義の導入、業務フローの検証及び改善、「外注契約」への恒常的シフトについて述べ、発展編として、退職勧奨、整理解雇・雇止めを扱い、第3節「会社経営が悪化したときの対応」では、応用編として、会社再建(債務整理)の手段、事業譲渡・廃業を前提とする清算型の法的倒産手続きについて解説しています。

 法律の専門家ではない人も読者として想定して書かれている大判本なので、基本事項に絞られている分理解しやすいです。法律上どうなるかを述べるだけでなく、実務上の対応にも踏み込んでいます。ただし、未曽有の事態であるため「正解」がない事柄も多く発生するであろうとし、活用上の注意点として、本書は実務上の「正解」が書かれているわけではないため、実務上の「正解」については、専門家に相談することを勧めているのも丁寧であると思いました。通読することで、自身の理解度をチェックしてみるのもよいかと思います。

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